紛争と気候変動:これは新常識なのだろうか。

紛争と気候変動:これは新常識なのだろうか。 

悲しい事だが、プーチンがウクライナでしている事は、彼や諸外国のリーダー達がこの地球にしている事に比べると何でもない。 

SIMON WHALLEY 

2022年3月2日 

腐敗政府の利己主義者、ブラディミア・プーチンがウクライナの人々に押し付けている過酷な戦時下、我々人間はまた方向転換の機会を与えられている。この男(プーチン)を支援しているのは、その財政の36を支える化石燃料大手のGazprom(ガスプロム)であり、もはや世界は米国の石油資金や西洋の武器を用いてイエメンで紛争を繰り広げるサウジアラビアなどの石油権力者達への依存を、きっぱりと辞めるべきだ。持続可能なエネルギーへの「迅速な転換」が解決の答えとなるのは明確なのに、残念ながら現在のウクライナ情勢を受け、化石燃料企業たちはGazprom(ガスプロム)の穴埋めをしようと、他地域へ生産を増やす計画だ。 

最近のIPCC (気候変動に関する政府間パネル)の報告書は、この「迅速なエネルギーの転換」が妨げられているために、今の子供達の未来に何が起こるかを示している。我々にまだ行動する時間があるうちに発行される最後の報告書となるだろう。下記は報告書の抜粋の一部である。: 

Figure 1 https://report.ipcc.ch/ar6wg2/pdf/IPCC_AR6_WGII_FinalDraft_FullReport.p

01:2度の気温上昇により、利用できる雪解け水の量が20%下がる。 

02:食料確保が著しく影響を受ける。 

03:土壌の質が衰える。 

04:ペストの脅威が高まる。食料や水、虫を媒介した感染症のリスクが高まる。 

05:2℃の気温上昇で18%が、4℃の上昇で39%の生物種が絶滅する危険性が高まる。 

06:海洋生物種が多数減少する。 

07:貧困者層が最も被害を受ける。 

08:世界中の森林やサンゴ礁の多くが損壊する。 

09:2050年までに10億人が洪水災害の影響を受ける。 

10:永久凍土が溶け、メタンが放出される事により、温暖化が加速する。 

我々は既に、人の自然界への無関心さによって出現し、未だに地球上をはびこる世界的感染症を通して未来を垣間見ているが、今また戦争が新たな警告を出していると言えるのではないか。悲しい事だが、プーチンがウクライナでしている事は、彼や諸外国のリーダー達がこの地球にしている事に比べると何でもない。 

国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏は、最近のIPCC報告書を「全人類の苦しみを示す地図帳」と表現し、 

「これらの事実は否定できるものではない。こんなリーダーシップの放棄は犯罪だ。世界最大の環境汚染者達は我々唯一の住居である地球への放火の罪で有罪だ。」と述べている。 

ウクライナの現状については、両国(ロシアとウクライナ)とも食料や水が豊富だったが、もしも食料や水が不足し価格が跳ね上がったら、一体何が起こるだろうか。そう遠くない過去を見れば、答えはわかる。 

2014年、米国国防長官のチャック・ヘーゲル氏は次のように述べた。 

「気候変動は、今我々が直面している感染症から武装闘争に至る問題の多くを深刻化させ、今後新たな問題を引き起こし得る“脅威の相乗者”である。」 

更に同氏は、氷河の喪失により水の供給が抑制され、ハリケーンにより異常気象が増し、干ばつと農作物の不作により大量の移住が起こるだろう、と続けた。加えて、2064年までに3,100㎞2のカリブ海岸域が失われる、とも。米国はこの気候変化が国防にもたらす影響を重々認識しながらも、国内の化石燃料生産を増加させているようだ。 

企業達が化石燃料と家畜の肉で我々の「民主主義」を肥やし続けるのを許している限り、ウクライナの状況は全ての国境で起こり得る事だ。 

海面が91㎝上昇すると128もの米軍基地が危機に曝される事もあり、17人の退役軍人らが、当時の国務長官レックス・ティラソン氏に気候変動への対策に従事し続けるよう助言書を書いた。内容は: 

「気候変動は、重要なインフラ設備に直接影響し、人道災害や州機能の崩壊、紛争の可能性を増すなど、米国防に対し戦略的に極めて危険な存在だ。」 

米軍だけが気候変動を国防への脅威と信じているわけではない。国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏は、世界中の軍の戦略家たちが気候変動を世界の平和と安全に対する脅威と見なしている、と警告した。 

温暖化が既に紛争を引き起こす手助けをしているという証拠がある。シリアの内戦は、シリア、イラク、トルコに位置するFertile Crescent(肥沃な三日月地帯)での大干ばつの後に起きている。家畜が死に、食物の物価が上がり、子供達は病気になり、150万人もの地方の人々が既に人口過密な都市部へ移動する事となった。しかもイラク戦争後に多くの難民が到着し始めた頃と重なった。この異常気象(大干ばつ)が温暖化無しで起きたとは考え難いと科学者らは述べた。異常気象が雇用の低下と粗悪な政治の問題を加速させ、内戦へ導く事となったのだ。 

さらに2007年にまで遡ると、国連はDarfur(ダルフール)での紛争は今後気候が引き起こす戦争の幕開けとなる一斉爆撃だ、と宣言した。2003年に始まったこの紛争の原因は元々地域の反乱と考えられていたが、国連環境計画の調査は雨量不足と広がる砂漠化が真の要因ではないかと示唆している。サハラ砂漠が毎年1マイルずつジワジワと拡大していく中、環境の悪化と気候変動により、農家や牧場主の間で縮小していく土地を巡る緊張が高まった。ここ40年間で雨量は30%まで減り、これらの要素が結びついて南北スーダン間の争いに再び火がついたのだ。サヘル地帯の収穫量は70%近くまで落ちると予想されている。砂漠化が南へ広がり、雨量が減り、収穫量が落ちる中、今後数年の間にスーダンやアフリカ全土で大きな侵略が起きないと想像する方が難しい。実際、Nature(ネイチャー)の研究ではアフリカで内戦が起こる可能性が2030年までに54%増加すると見なされている。気候変動が戦争を引き起こすのを信じない人のために述べるが、過去50年間の研究で、気温上昇または雨量変異がローマ陥落と結びついた事が分かっている。更にNatureの研究結果は、過去12,000年の歴史を通し気候変動と武力紛争との間には顕著な繋がりがある事を明確に示している。 

我々全員が一斉に意識改革し、共に進化してきた兄弟姉妹たちへの愛情を示し始めない限り、紛争は治まるどころか増えていくだろう。Natureの調査は、一ケ月に3℃ほど気温が上昇しただけで、武力紛争の可能性が14%近くまで上がるとしている。 

気候が引き起こす戦争は、アフリカやアフリカからの難民が押し寄せる地域だけに留まらない。中央、南アジアや中央、南アメリカで、気候変動が引き金となった紛争が爆発的に広がるだろう。これまでにない規模の難民の大移動が起こり、結果的に人種差別や争いの増加に繋がっていくのだ。 

将来、水は青い金貨のようになりそうだ。水不足が加速し、2030年までに需要が供給を上回ると、水を巡る戦争は翌10年で増えていくだろう。2011年に米国上院外交委員会は、「水を巡る戦争の回避」という報告書を発行した。その中には、アフガニスタン、パキスタン、タジキスタン、カザフスタン、キルギスタン、トルクメニスタンを含む中央アジアとインドについての懸念が表明されている。政治、経済、社会の安定を維持するためには、各国政府が国民一人一人に水を供給できるかどうかが必須、と見ているのだ。 

2012年、クリス・アーセノートは次の水を巡る戦争はイエメンの南北間で起きると予測した。実際争いを起こした人々は違ったかもしれないが、2014年にイエメンで始まった内戦の一部要因は、水不足と考えられている。水不足は気候変動と誤った水の管理により加速した。 

特に水が乏しく高温地域である中東は危機にある。実際、2025年までに水不足に直面するとされる30か国のうち18か国は中東と北アフリカの国々だ。近代に水が起因した戦争が少なくとも二度起きているこの地域では、水を巡る争いは珍しくない。著書「Water Wars(水を巡る戦争)」の中で、エイデル・ドーウィッシュ氏は、セネガル川付近の農業権を巡り1989年のセネガル、モーリタニア間の戦争が起きたと書いている。ユーフラテス川を巡りシリアとイラクが小さな諍いを起こしていたとも加えている。その最も大胆な陳述の中で、同氏(ドーウィッシュ氏)は前イスラエル首相のアリエル・シャロン氏が1967年のアラブとの戦争は水を巡るものだったと話す録音を聞いたと言っている。 

世界の大河川の多くは、海に注がれるまでの間に複数の国を通って流れている。水の供給が減ってくると、上流域の国々は水流が陸域に行くように変えようとし、下流の国々に渡る水量は制限されるかもしれない。そんな状況になると、特に食料や水が少ない地域では緊張が高まるだろう。 

既に7億8千万人以上が清潔な飲み水に困窮しているが、我々が今目にしている気候の危機によりその数は著しく増していくだろう。国連は2030年までに世界の全人口の約半数(47%)が水不足の影響を受けると予測している。水が無くなれば、人はまず他の土地へ探しに行く。我々の全てが持つ生きるための本能だ。現在のように黒い金貨ではなく、将来は青い金貨を求めて戦争が起こるのは十分考えられる。 

Figure 2 'https://paulhawken.com/

気候変動により戦争が起きる可能性が著しく高まる事実は、包み隠されずに明確であるべきだ。まだ対処の時間はあるが、その門は急速に狭まってきている。最新の気候学によると、もし温室効果ガスの排出が留まれば、5年以内に温暖化のピークがくる。もう何をするべきか分かるはずだ。「Project Drawdown」という本に全て書かれていて、我々のリーダー達もこの情報を知っている。彼らがこの本を持っているのを皆が見ているのだ。残念な事に、リーダー達は逆説を唱える良識をよそに、長期的な成長よりも大企業達の巨大な機械に妥協しているから、我々が行動するしかない。 

冷戦の最中、スティングが「ロシアも自らの子供達を愛してほしい。」と歌ったのは有名だ。ウクライナの人々は今、ロシア軍の武力の前に立ち上がり、自らの愛情を明確にしている。企業達が化石燃料と家畜の肉で我々の「民主主義」を肥やし続けるのを許している限り、ウクライナの状況は全ての国境で起こり得る事だ。今こそ我々が、その利己的、強欲さで我々の命を危険にさらす腐ったリーダー達や彼らを支える企業達に立ち向かい、子供達への愛情を明示する時ではないだろうか。Extinction Rebellionのような活動団体は、理性的な方針を掲げている。他に希望の光は無いと気づき行動するのが早いほど、子供達も更なる愛情を返してくれるだろう。

Meguによる翻訳
https://megchameleon.wordpress.com/

https://www.commondreams.org/views/2022/03/02/conflict-and-climate-change-new-normal 

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